フレアーアップとは、歯の根の周囲にいる細菌が治療の開始をきっかけに活性化し、今まで無症状だった歯が痛み始める現象を、埋み火が再び燃え上がる(flare up)事に例えて表現された現象です。この現象は病巣における「細菌の存在」と根の先端周囲の「密封された空間」、そして「刺激因子(多くの場合は薬剤)」の3者が重なることにより発症すると考えられます。
一度発症すると、「密封された空間内での炎症」→「周囲からの浸出液による圧力の増加、炎症細胞の浸潤」→「細胞の分解による菌体内発炎物質の放出」→「密封された空間内での炎症の増強」という悪循環が生じ、局所の強い腫れ、痛みを惹起することになります。
発症の確率は10%未満と決して高くはありませんが、一度発症すると強い痛みや腫れに移行する場合もあります。
そのためフレアーアップの可能性が予想され場合は予め予防的な対応を行います。具体的には「細菌の存在」、「刺激因子(これは薬剤のようなはっきりとした物質だけでなく、根の汚れを取り去ることに伴う根の中の酸素濃度の変化のような微妙な変化も引き金となり得ます)」を除外することは難しいため、3番目の「密封された空間」というの条件を解除するため根の先端まで消毒薬を通す道が確保出来たらいきなり薬を入れて蓋をしてしまうのではなく、根管をそのまま開放します。根先周囲の細菌は酸素を嫌う嫌気性菌が主体のためこの処置は直接このような病原菌を弱らせる効果があると同時に、酸素とともに根の奥に広がった酸素を好む細菌(好気性菌)による嫌気性菌への抑制作用も期待できます。これによりフレアーアップの発症の確率は下げられると同時に、「周囲からの浸出液による圧力の増加」を回避することになり、たとえフレアーアップが起きても上記の悪循環は生じず、強い症状に移行することは避ける事が出来ます。
ただこのような状態が長くなりますと嫌気性菌に交代して増殖した好気性菌による組織の破壊が生じるようになります。好気性菌は酸素を使って代謝を行うため、好気性菌と比べ破壊力が格段に強く、あっという間に歯の中が腐ってしまいます。そのため開放の期間は短期間にとどめ、なるべく早く次のステップである薬剤による病巣の消毒の開始が望まれます。治療の初期以外でもフレアーアップが起きる可能性はありますが、一度開放され病原菌の勢いが抑えられており、又使用する薬剤も病巣への刺激作用が弱いと同時に一旦発症した場合、浸出液の作用により急速に患部に広がり局所に強力な鎮静効果を発揮する薬剤を選択しておりますので、たとえフレアーアップが発症しても比較的穏やかな発作で済みます。しかし不幸にもフレアーアップが起き、上記の予防的配慮にもかかわらず強い腫れ・痛みが生じる場合は「細菌の存在」を直接抑える為に躊躇なく抗生物質の内服が望まれます。