虫歯や歯周病対策と並んで生涯健康な口腔機能を維持する上で重要なのは健全な歯並びの育成です。健全な歯並びは単に虫歯や歯周病に見た目に綺麗というだけでなく虫歯や歯周病にかかるリスクを減少させますし、発音や咀嚼・嚥下といった機能にも深く係わります。お子様の成長に寄り添いながら折々に生じる不正な咬み合わせの芽を早期に発見し適切に対処すれば最低限の費用と通院で済みますしまたこの時期にしかできない治療もあります。
(1)保隙
乳歯の奥歯を早期に喪失しそのまま放置すると奥の歯が寄ってきて本来そこに生えるべき歯が十分生えきれなかったり、歯列からはみ出て生えてしまう事になります。それを防ぐために歯が寄るのを防ぐ保隙装置といわれるものを入れる必要があります。保隙装置には「クラウンループ」、「クラウンディスタルシュー」、「床保隙装置」の3種類があり失われたン乳歯の位置や状況により使い分けます。
➀クラウンループ
この装置は乳歯の奥歯が1本無くなった場合に残りの1本にループ型のつっかえ棒がついた冠(クラウン)をかぶせ奥の歯あるいはその歯が前に寄るのを防ぐ装置です。クラウンの代わりにバンドで作る場合もありますが長期にわたる安定性でクラウンの方が優れています。この装置は平成28年4月から保険で出来るようになりました。
②クラウンディスタルシュー
2本ある乳歯の奥歯の内、後方の1本が無くなったがその後ろに生えてくる大人の歯(六歳臼歯)がまだ生えていない場合前方の乳歯の奥歯に冠を被せ骨の中の六歳臼歯までつっかえ棒を伸ばし、六歳臼歯が前方に移動するのを防ぐ装置です。
バンドループもクラウンディスタルシューも土台となっている歯が失われ永久歯の萌出まで時間がかかりそうな場合は次に紹介する床保隙装置を入れる必要があります。
③床保隙装置
乳歯の奥歯が2本とも失われた場合固定式の保隙装置を入れる事が出来ないため、大人の「入れ歯」に類似したプラスティク製の床保隙装置と呼ばれる着脱式の装置を入れておく必要があります。大人の歯が生えてきたらその場所の人工の歯を削除し2本の永久歯が生えそろうまで使用します。
何れの保隙装置も永久歯の動きにより臨機応変に装置に手を加える必要があるため定期検診による管理は必須です。
左上の乳歯の奥歯が2本失われ後ろに
永久が生えています
大人の入れ歯に似た人工の歯を入れ
奥の永久歯が寄らないようにしています。
(この症例ではさらに装置を使い左上の
永久歯を奥に押し戻そうとしています)
(2)円滑な生え変わりの誘導
永久歯がずれて生えたり骨の深い位置にあり生えない場合があります。これを放置すると不正な形態のまま歯や骨が完成してしまうため、後で治そうとすると歯を並べるためのスペースの確保から始める事になり多大の労力がかかります。そこでそのような兆候をなるべく早く察知し間髪を入れず処置を始める事ができれば、歯の自然の萌出力を利用でき骨も柔らかいため比較的容易に最小限の時間で歯並びの不正を修正する事ができます。
症例1
症例2
症例3
(3)骨格的な要因が絡んだ歯列不正
歯列不正の中には歯だけでなく骨格の形態や位置の変位が背景にある場合があります。診断には頭部エックス線規格写真(セファロ)が必要で、治療には骨格型の成長変異を促す装置を使用します。最終的には仕上げのための矯正装置につなげる必要がありますが、幾らかでも骨格型への働きが可能なこの時期にしかできない治療ですので前向きの検討が望まれます。またこの様な複雑な要因が絡んだ歯列不正は矯正専門医による管理・治療が必要な場合も多いため、専門医へご紹介の上協同でお子様の歯科的管理を行う場合もございます。