歯周病とは歯の根元に帯状に付着する細菌(これを「歯垢(しこう)」あるいは「プラーク」と呼びます)が原因で歯を支える歯ぐきが破壊される病気です。
歯垢は歯と同じ色をしているため染め出さないと識別できません
破壊は何十年という単位で極めてゆっくり進むため、病気が進行するまで自覚されることはありません。そのため治療の時期を逃し毎年多くの歯が失われております。虫歯が原因で抜歯される歯の割合が約32%に対し歯周病で抜かれる歯は約42%と、はるかに多くの歯が虫歯ではなく歯周病で抜かれているのです。
抜歯の原因
平成23年の調査で70歳の人に残されている歯の数は約18本で、智歯(親知らず)以外のすべての歯が残っているとすれば28本ですからこの年代までに約三分の二の歯が失われる計算になります。この大きい原因が歯周病を治せる時期に治していないという事にあるのです。
早く見つけ出すことができれば歯周病は容易に治すことができる病気です。原因である歯垢を着けないようにするための歯ブラシを中心にした生活習慣の見直しと、歯垢が固まってしまった歯石を除去する程度でほとんど進行を止める事が出来ます。後は定期的なケアでその状態を維持すれば良いのです。
歯周病は歯の根元に付着するプラークを放置することにより始まります。プラークの細菌は歯ぐきに炎症を起こさせる様々な毒素を周囲にまき散らします。この初期の「歯肉炎」の段階で気がつけばプラークをきちんととることにより簡単に歯ぐきは健康な状態の戻ります。しかしこの段階を過ぎるとプラークは歯と歯ぐきの隙間(これを「歯周ポケット」あるいは簡単に「ポケット」といいます)に侵入し歯ぐきを内面から痛めつけるようになります。更にポケット内のプラークにカルシウム分が沈着することにより、石のように固くなった「歯石」が歯の根の表面に沈着するようになります。歯石はそれ自身歯ぐきを傷つけますが更に表面にプラークを付着させることで歯ぐきの炎症を一層強めます。炎症状態が長引くと骨を始めとする歯を支える組織が壊れポケットが深くなります。そこへプラーク・歯石が侵入し歯ぐきの破壊が進行するという悪循環が生じ、歯周病は下図のように軽度→重度→末期とと進行していきます。この変化は一般的には極めてゆっくりと何十年もかけて進行していくため、自覚症状は歯周病がかなり進行した段階でないと生じません。
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健康 |
歯肉炎 |
歯周病(軽度) |
歯周病(重度) |
歯周病(末期) |
図 |
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腫れ |
なし |
あり |
軽度 |
重度 |
重度 |
発赤 |
なし |
あり |
あり |
あり |
あり |
出血 |
なし |
時にあり |
触れると出血 |
触れると簡単に出血 |
触れると簡単に出血 |
痛み |
なし |
なし |
ほとんどなし |
急性発作時にあり |
急性発作時にあり |
咬みやすさ |
問題なし |
問題なし |
ほとんど問題なし |
時に痛みを意識 |
歯が動いて咬めない |
ポケットの深さ |
3mm以内 |
3mm以内 |
4mm以上 |
4mm以上 |
4mm以上 |
動揺 |
なし |
なし |
わずかに動く |
かなり動く |
ふらふら |
歯石 |
なし |
見える部分にわずかに付着 |
見える部分からポケット内の浅い部分に付着 |
ポケット内の深い部分に大量に付着 |
ポケット内の深い部分に大量にべったり付着 |
骨の破壊 |
なし |
なし |
軽度 |
顕著 |
全周の骨が消失 |
排膿 |
なし |
なし |
わずか |
時に多量 |
多量 |
根と歯肉の結合最上縁部 |
エナメル質 |
エナメル質 |
歯根の浅い部分 |
歯根の深い部分 |
結合なし |
予後 |
良好 |
歯垢清掃で簡単に健康に戻る |
歯周病治療で進行停止可能だが骨の破壊は回復しない |
歯周病治療で進行停止可能だが骨の破壊や機能障害は残る |
抜歯 |
歯垢のポケット内進行と周囲組織破壊の悪循環
歯周病の治療はまず歯周ポケットの深さの測定を中心とした診査で状況の確認を行います。次にその結果に基づき原因菌の塊である歯垢(プラーク)をなるべく低いレベルに抑える治療を行います。具体的には歯に付着している歯垢が現在の歯ブラシなどで十分落とされているか調べ、より効率的な歯ブラシやデンタルフロスの使い方を歯科衛生士と一緒に考えていただきます。そしてその様な歯の磨き方を毎日の生活で実践していただきます。生活習慣病である歯周病の治療はこの日常生活での取り組み無しには成功はおぼつきません。
一方歯垢が固まってしまった歯石はそれ自身歯垢の強力な付着因子ですが文字通り石のように固いため、その除去は特殊な道具を使い歯科医師や歯科衛生士が行います。歯石除去による歯周病の治療を効率よく進めるため、最初歯肉の上に見える浅い部分の歯石の除去を行い歯ブラシなどを徹底していただく事により軽い病巣を治してしまいます。これで治りきらない病巣はポケット内の深い位置に歯石が隠れていると考え、時には麻酔も使いながら深い部分の歯石の除去を行います。
深い部分の歯石の除去は再評価の診査後再度繰り返す場合もありますがそうでない場合は、1回目の再評価の診査まで通常3回(3週間前後)、2回目の再評価の診査までは、歯周病の程度や残っている歯の数にもよりますが、通常5〜10回(6〜12週間前後)かかります。
以上の治療は下のフローチャートで黄色く描かれている部分で、すべての歯周病治療で必ず行われる治療です。それ以外の治療は必要に応じて行われますが特に手術はそれまでの治療に対する歯ぐきの反応、歯ブラシ等の生活習慣の定着度、全身状態、手術で期待できる効果等を慎重に検討して行うかお話しいたします。
歯周病以外の虫歯や歯の神経の治療、入れ歯やブリッジの作製等の治療は歯周病の治療と並行して行い治療回数の短縮を図ります。
すべての治療が終わった後はその状態をなるべく長く維持できるよう半年に一度程度のメインテナンスをお勧めします。